あの大貫“1億円”久男さんの孫がタカダ・コーポレーションな件について


それは、1980年のゴールデン・ウィーク目前(4月25日)の銀座のド真ん中で、廃品回収をしていたトラック運転手の大貫久男さんが、

ゴミの中から風呂敷に包まれた1億円を発見という、夢のような出来事であった。

正直に警察に届け出た大貫さんは、どこにでもいそうな42歳のおじさんだったが、その日からは連日のテレビ報道で、

たちまち「1億円の大貫さん」として1億人の日本人から注目される存在となった。

そこには、「ほとんどあり得ない」というシチュエーションへの純粋な驚きと、それを拾った大貫さんへの、やがて拾得物として

持ち主が現れなければ棚ボタ式に懐へというジェラシーと、そもそも銀座のど真ん中の、さらにはゴミ捨て場に捨てられた1億円というのは、どのような性質のカネなのか?

というスリリングなミステリーへの推理とが渾然一体となって日本国民の間に沸き起こった。

そして、これだけ周知となった出来事だけに、果たして持ち主が名乗り出ることなく、1億円の札束は大貫さんのモノとなるのかどうか、

というカウントダウンが国民の関心事となった。



しかし、一躍時の人となってしまった大貫さん本人は、その拾得状況の異様さから、国民の誰もが思ったのと同じように、その1億円が決して普通のカネではないと感じ、

また実際脅迫が相次いだことから、カウントダウンを心待ちにする余裕などなく、身辺警護のボディ・ガードを雇ったり、防護服を着用したりと、気の休まる暇もない、

むしろ大変気の毒な境遇に置かれることとなった。

考えてみれば、これは一人の平凡な人間の人生を、日々テレビという盗撮環視のもと成り行きを見守る、国民全員参加の期限付きゲームだったと言えなくもない。

そして遂に持ち主は名乗り出ることなく期限のXデーを迎え、晴れて1億円は大貫さんのモノとなったが、これまた衆人環視のもと、1億円の小切手を受け取る大貫さんの顔は

緊張にこわばっていた。(1980年11月)



ちなみに1980年の宝くじのドリームジャンボ1等賞金は3,000万円の時代である(前後賞は無い)。

こうして身の危険すら感じた日々を過ごした末の1億円は全額が大貫さんに所有権が移転したものの、無情にも国家により、そのドリームジャンボ宝くじ相当の

3,000万円強が税金として徴収されたのである。

棚ボタとはいえ、非課税の宝くじに比べ、それまでの神経をすり減らす日々からすれば、大貫さんは複雑な心境であったはずだ。



その後、大貫さんは20年後の2000年12月に62歳という、長寿国日本にあっては早すぎる死を迎えた。

1990年のバブル崩壊後の「失われた10年」の到来を予期していたかのごとく、マンションを買った程度で質素に暮らしていたと伝えられる大貫さんだが、

大貫さんの同世代が60歳定年を迎えた1998年は戦後最悪の倒産の嵐で、まともに退職金も支払われない境遇に陥って長い老後に呆然としていた状況を考えれば、

定年退職金を40歳そこそこで1億円も早期支給されたと思えば、やはりラッキーだったと言えなくもない。



尚、大貫さんの1億円拾得から10年が経とうとしていたバブル絶頂期の1989年、同じく4月に、今度は川崎市の竹やぶから1億円余りが入ったバッグが発見され、

さらには数日後に紙袋入りの9,000万円も見つかるという、前後賞付き計2億円(笑)の椿事が発生。

しかしこれは、あっさり「脱税金」と名乗り出た会社社長が記者会見し、発見者には1割程度が支払われるのみとなった。



1980年、ゴミ捨て場の1億円で幕を明け、1989年、竹やぶの2億円で幕を閉じたという、80年代の狂った金余り現象は、

大貫さんが亡くなった2000年の年末が明けた2001年春から、再び日銀の量的緩和により金がジャブジャブの状況が生まれている。

果たして大貫さん1億円から30年が経とうとしている今、これらの金は再びゴミ捨て場や竹やぶに向かうのであろうか....

いや、インドのゴミ捨て場や中国の竹やぶに向かっているのかもしれないが。



さて、標題の吉本お笑いユニットタカダ・コーポレーション」の大貫幹枝さんだが、大貫久男さんが1億円を我が物とした約半年後の

1981年7月に孫として誕生。そして成人を迎える半年前に祖父である久男さんがこの世を去る。

そんな80年代と共に成育した幹枝さんが、21世紀目前の20世紀と共に人生の幕を閉じた祖父と入れ替わりのように、21世紀の今、テレビで全国に顔を売りつつあるが、

果たして相方の「おやき」は大貫幹枝さんにとって「ゴミ捨て場から1億円」ほどのインパクトを持ち得る拾い物になるのかどうか。

1億国民は今後を見守りたい。


 

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